神戸大学 大学院理学研究科 物理学専攻 粒子物理学研究室

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ATLAS 実験グループ ~ テラスケールの地平を切り拓く ~

ATLAS実験は、世界最高エネルギーの加速器LHC(Large Hadron Collider)での陽子衝突を用いた実験です。 LHC はスイス・ジュネーブのCERN(欧州原子核研究機構)の加速器で、周長は27kmです。これまでの一気に7倍の14TeV(テラ電子ボルト、テラは10の12乗) の重心系エネルギーでの衝突により、テラスケール、すなわちTeVの領域の新しい粒子、相互作用を探索します。

LHC は、そして2010年3月に重心系エネルギー7TeVでの衝突に成功し、物理実験を開始しました。神戸大学が建設に大きく寄与した前方ミューオントリガー検出器 (Thin Gap Chamber = TGC、右上図の左下)をはじめとした検出器が順調に動作しデータ収集を行いました。

LHCのミッション

現在見つかっている素粒子とその相互作用を記述する素粒子の「標準模型」は、あらゆる実験により非常に精密に検証されていますが、なぜクォークやレプトン(電子、ニュートリノなど)はちょうど3種類あるのか、なぜその質量が粒子により11桁以上異なるのか、などの疑問に答えを与えません。このため標準模型は究極の理論ではなく、テラスケールの世界では標準模型を内包した新しい理論で素粒子が記述されるべきであると考えられています。LHCではこのような物理を、衝突を用いて直接発見し、その性質を調べます。 期待される主な物理は次の2つです。

2012年7月ヒッグス粒子が発見され(CERN発表)、2013年ノーベル物理学賞にヒッグス粒子の存在を提唱したピーター・ヒッグス名誉教授とフランソワ・アングレール名誉教授の2人が選ばれました。(参考)

が、これから先、我々の予想もしない大発見があるかも知れません。素粒子の研究はLHCの開始によりまさに革命前夜を迎えています。皆さんも一緒に研究してみませんか?

神戸大での研究

神戸大学は、ATLAS日本グループの中で東大、KEK(高エネルギー加速器研究機構) に続き3番目に大きなグループです。これまで検出器の建設にも大きく関わってきました。

  • KEKで生産されたTGC検出器の宇宙線を用いた全数検査を神戸大で行い、現地での組み込み作業を行いました。TGCはミューオンを含む事象を検出し、実時間で取捨選択するミューオントリガー装置の初段に用いられる検出器です。TGCの信号から、素早く運動量を計算するハードウェア(セクターロジック)、それを運用するソフトウェアを開発、運用して2012年までのトリガー運転に大きく貢献しました。
  • 第2段・3段レベルミューオントリガーのアルゴリズムを開発し、また動作モニターを担当してきました。

これらの研究活動が、高効率でのミューオン取得を可能にし、新粒子の発見などの大きな成果につながりました。

現在の主な活動は、検出器の運転と動作改良、衝突データの物理解析、アップグレードに向けた検出器の開発・製作の3つの柱で行っています。

  • 検出器運転・開発 (スタッフの指導の下、主に修士課程の学生が活躍)
    • ミューオン初段トリガーは2015年の加速器再始動によってデータ量が数倍に増えるのに伴うトリガー増強を行っています。セクターロジックの改良により、トリガー頻度を落とすための論理の開発、そのハードウェアへの実装を行い、2015年への準備を進めています。
    • CERN研究所での検出器運転のための作業を行い、実験に貢献しています。
    • トリガー効率の精密決定を行い、物理解析の精度を上げることに成功しています。
    • ミューオン第2段トリガーも2015年までにトリガー頻度を減らすため、トリガー論理アルゴリズムの改良を行っています。
  • 物理解析 (博士課程学生、研究員、助教)
    • ヒッグス粒子が W 粒子対に崩壊する断面積の測定を行っています。事象数が多い代わりにバックグランドも多いため、特にトップクォーク、2ボゾン生成過程のバックグランド算出方法の改良を行い、これらは 2012 年まで全てのデータのヒッグス粒子解析に用いられています。
    • トップクォークや高い pT のジェットの生成断面積の精密測定などにより標準模型を精密に検証し、理論にほころびがないか調べるとともに、ヒッグス粒子探索などでのバックグランドの理解を深め、それらの感度を向上させています。
    • 超対称性などで予言される重い長寿命荷電粒子の探索を行っています。粒子のスピードが光速より遅いことで重い粒子を探すため、タイミング測定を精密に行うためのデータの理解を進め、感度を向上させることにより理論に制限を与えています。
  • アップグレード
    • 2019 年にはさらなるデータ量の増強に対処するため、最内層のミューオン検出器をより高性能のものに入れ替えます。現在、µ-PICグループがこの検出器の製造方法の開発に参加しています。ATLASグループは協同でトリガー論理の開発、必要なハードウェアの開発を行っています。

LHC で探索・研究している新物理の例

  • 質量の謎とヒッグス場
    現在の素粒子とその相互作用を記述する場の量子論は、いわゆるゲージ不変性(理論が局所的な場の位相の変化によらない)を保ちつつ標準模型の粒子に質量を持たせることが出来ません。すると、我々の世界を構成するこれらの粒子は光速で運動していなければなりませんが、現実の世界はそうではありません。粒子を減速させる、すなわち粒子に慣性質量を与える役割を果たすと考えられているのが「ヒッグス場」です。この場は直接検出は出来ませんが、質量の大きな粒子を介して場に揺らぎを与えると、その揺らぎがヒッグス粒子として観測されます。 LHC では高いエネルギーの衝突を用いて質量の大きな粒子を生成し、それがヒッグス場に振動を与えることによりヒッグス粒子を生成します。

    粒子が同じかどうかは質量で区別できるので、ヒッグス場は標準模型における世代数の謎、粒子の質量が互いに大きく異なることなどの解明の鍵を握っていると考えられています。

  • 超対称性
    超対称性は、既知の標準模型の粒子(右図の particles)と同じ相互作用をするペアの粒子が存在するとする理論です(右図の Supersymmetryc "shadow" particles)。両者は全く同じではなく、違いは2つあります。一つはスピンで、標準模型のフェルミ粒子(スピン1/2)に対してはスピン0のボーズ粒子が、ボーズ粒子に対してはフェルミ粒子が対応します。もう一つは質量で、超対称粒子は標準模型の粒子よりはるかに大きなテラスケールの質量を持つので未発見であると考えられています。 粒子を超対称粒子に変換する演算子は、一般相対論に現れる時空のゆがみを引き起こすことが知られています。このことから、超対称性理論は、場の量子論と重力との融合に必須だと考えられています。また、中性の超対称粒子が安定である場合、宇宙観測から存在が確実視されている暗黒物質(重く相互作用をほとんどしない粒子)の候補になります。他にも理論的に様々なアドバンテージがあり、標準模型を超える物理の最右翼と考えられています。

メンバー

教員

  • 藏重 久弥
  • 山崎 祐司
  • 越智 敦彦
  • 清水 志真
  • 前田 順平
 

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